渋沢栄一

最近私が衷心喜びに堪えないのは、国際連盟がその事業として、経済方面から世界の協調を図ろうとしておることであります。・・・ およそ国家が真正の隆治を希望するには、ぜひともその政治経済を道徳と一致せしめねばならぬものである。而して、国際間の経済の協調が、連盟の精神を以て行わるるならば、決して一国の利益のみを主張することはできない。他国の利益を顧みないと云うことは、正しい道徳ではない。所謂共存共栄でなくては、国際的に国を為して行くことは出来ないのであります。 経済の平和が行われて初めて各国民がその生に安んじることができる。而して、この経済の平和は、民心の平和に基を置かねばならぬことは、申すまでもありません。他に対する思いやりがあって、すなわち、自己に忠恕の心が充実して、初めてよく経済協調を遂げ得るのであります。